偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「なにが悪い?」

答えないでいたら、さらに彼が頬を潰してくる。

「……悪くにゃい、です」

たぶん、という言葉は飲み込んでおいた。
そうじゃないとさらに、彼を怒らせそうだから。

「なら、なにも問題はない」

満足したのか、頷いて彼が手を離す。
おしぼりで手を拭き、次に出てきたイカの握りを口に入れた。

「ほら李亜、早く食え?
寿司は鮮度が命だ」

「……はい」

促され、目の前に並んでいる握りを口へ運ぶ。
買った癖に、御津川氏は私を妻と呼ぶ。
確かに、婚姻届は書いた。
そういう契約だっていうのもわかっている。
けれど、それは私を戸惑わせた。

夕食のあとは、レジデンスに向かった。
都会のど真ん中にこんな、緑溢れる場所があるなんてなんだか意外だ。
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