偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
私を見る、レンズの向こうの瞳は怖いくらいで、思わず身体がぶるりと震えた。

「……はい」

「うん、それさえ守ってくれたらいい。
……そろそろ出る」

私の返事に満足げに頷き、彼は腕時計を確認して椅子を立った。
そのまま私の隣で足を止め、上へ向かせる。

「いってくるな、李亜」

軽く顎に拳を添え、彼の唇が重なった。

「なるべく早く帰ってくる。
今日は鉄板焼きを食いにいこう」

ひらひらと手を振りながら彼がリビングを出ていく。
ひとりになって、いまだに鼻腔に残る香りに気づいた。

「これ、知ってる……」

御津川氏の、香水の匂い。
どこかで嗅いだ覚えがある。
しかもそれは、私のいい記憶として残っている。

「どこ、だっけ……?」

けれどいくら考えても、思い出せなかった。
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