オフィスラブはじまってました
 ひなとは、
 まずいことを訊いてしまっただろうか……、
とちょっと後悔しながら、入野が持ってきた、焚き火台にもダッチオーブンにもなるバーベキューコンロを見た。

 六角形でピカピカのステンレスのそれを羨ましそうに柚月が眺めている。

 ……近いうちに、この人も買ってきそうだ、
とひなとは、おのれの心の中だけで予言した。

「いやあ、実はあの日、降りるバス停間違えちゃって」
と炭を並べながら入野は言う。

「もうひとつ先だったので、ちょっと歩きました」
と言う入野に、

「あれっ?
 じゃあ、うちの会社と同じ辺りですね」
とひなとが言うと、入野は顔を上げて訊いてきた。

「ひなとさんがお勤めなのは、なんて会社なんですか?」

 ひなとが会社名を告げると、
「ああ、そこですよ。
 僕が行ったの」
と入野は笑う。
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