オフィスラブはじまってました



 匂いにつられ、徐々に人が増えていく田中の庭で、ひなとは炭火により香ばしく焼けている肉を見ながら、

「……此処は住んだ人がみなハッピーエンドになれるハッピーエンド荘ではなかったんですか」
と呟く。

 ずっと出ていけていない201号室の住人の話を聞いたからだ。

「出て行った連中はみんな此処でハッピーになったと言ってるよ」
と肉を焼きながら、澄子が言ってくる。

 だからそれ、出てった人だけですよね?

 実は此処、住むとご利益があるアパートじゃなくて。

 自力でハッピーエンドにならねば出ていけないという呪いのかかったアパートだったのだろうか……?
と思うひなとの皿にたれつきの肉を柚月が入れてくれた。

 程いい感じに味噌だれが焦げた肉を見ながら、ひなとは思う。

 ……いや、別に出て行かなくていいか、と。

 今、此処に住んで、こうしているだけで、ハッピーな感じがするし。

 宝くじが当たらなくても、結婚が決まらなくても。

 いや、肉につられたわけではないんだが……、と思いながら、柚月が焼いてくれた肉を美味しくいただく。
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