オフィスラブはじまってました
「月初めの第一金曜日の夜は大抵ついてるね」

「そ、そうなんですか?
 ……あ、でも、誰か住んでらっしゃるのなら、明かりがついててもおかしくないんじゃないですか?」

「いやいやそれがさ」
とまるで、すぐそこで、201号室の住人が聞いているかのようにおじさんは身を乗り出し、声をひそめた。

「201号室はさ、煌々(こうこう)と普通の照明をつけてることってないんだよ。

 いつも、蝋燭か電気スタンドの明かりみたいなのが、ぼんやり見えるだけなんだ。
 まるで、潜んでるみたいだと思わない?」

「と、逃亡犯とか?」
とひなとは言ってみたが、

「201号室、柚月よりも前からいるんだろう?
 そんなに長く、アパートや近所の人間に見つからずに生活できるものなのか?

 幽霊だって方が合理的じゃないか?」
とどの辺が合理的なのかわからないが、緒方が言ってくる。
< 346 / 576 >

この作品をシェア

pagetop