オフィスラブはじまってました
「教会を出た途端、新郎に逃げられる夢をみました」
バスの中でひなとは、そう淡々と呟いた。
並んで後部座席に座る柚月が、
「……新郎って誰だ」
と前を見たまま訊いてくる。
貴方です、と思っていたが、口には出さなかった。
教会の鐘が鳴り響くなか、ふたりで手をつないで、仲良く階段を下りていくはずが。
教会を出た瞬間に、呪いがとけた新郎様が、
「じゃ」
と言って帰っていってしまったのだ。
ハッピーエンド荘の呪い。
実は、住人をハッピーにしては退去させ、回転率を上げて、敷金礼金を踏んだくる澄子さんの呪いだったとか?
と澄子が聞いていたら、
「そこまで金に困ってないよっ」
と叫ばれそうなことをうっかり思ってしまう。