極上イケオジCEOのいちゃあま溺愛教育 ~クールで一途な彼の甘い独占欲~【完結】

5.初めてホテルのバーでカクテル飲んでみます

「あ……はい。あの……」

 恥ずかしくて断ろうとしたら、なんだか頼りなげな言い訳をしてしまった。

「私、ひとりでホテルのバーにくるのは初めてで……あの、その……」

 黒服男性はにっこり笑うと、誘導するようにすっと右の手のひらを見せた。

「さようですか。ではカウンターにご案内いたしましょう」

 物腰の柔らかさに、ちひろの気後れが少しだけ払しょくする。

(帰るタイミングを失っちゃった。カクテルをちょっとだけ飲んで帰ろう)

 黒服男性に案内され、カウンターの中央より少し右寄りのハイスツールに腰をかける。
 カウンターの内側にいるバーテンダーの男性が、慇懃に声をかけてきた。

「何にいたしましょうか?」

「ええと……すみません。私、あまりお酒に詳しくないんです。飲みやすいカクテルをお願いします」

「はい。承りました」

 なんだが居心地が微妙というか、椅子の座りがよくなくてムズムズする。
 周囲が気になってキョロキョロしてしまうが、やはり自分が場違いだと再認識してしまう。

「マリブ・ピニャ・コラーダでございます」

 目の前に出されたのは、ワイングラスに入ったクリーム色のカクテル。
 上部は泡立っており、中には小さな氷がフワフワと浮かんでいる。
 グラスのフチには、真っ赤なチェリーと扇形に切ったパイナップルが飾られていた。

 グラスに指をそっと添えて、ひとくち飲んでみる。
 甘いリキュールとパイナップルジュース、そしてココナッツミルクのハーモニー。
 口内にスパニッシュな南国が広がり、ちひろの心も解き放たれたような気がした。

「美味しい。わあ……こんなにステキなカクテル初めて」

 つい心の声が口から洩れてしまい、バーテンダーがにっこりと笑った。

(やだ、田舎者丸出しじゃない)

 恥ずかしくなって、カクテルを半分ほど一気に飲む。
 途端に顔がカーッと熱くなって、額から汗が噴き出そうになった。
 ふわりと頭が浮くような感じがする。

 フラフラと頭が左右に揺れるが、なんとか醜態を晒さないよう意識を保った。

(酔っ払っちゃった……? 頭がフワフワする……)

 ワイングラスを眺めていたら、隣の席に誰かが座ったことに気づく。
 その人物は腰かけると、低く掠れた声でバーテンダーに注文した。

「シェリートニックを頼む」
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