幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~
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――この悲劇は,ある日突然あたしの身に降りかかってきた。
「ええっ!? 借金が一億円!? どういうことよ,お父さん!」
あたしの父親は輸入食品を扱う小さな会社を経営していたのだけれど,ある時多額の不渡りを出して一億円にものぼる借金をかかえてしまったらしい。
「そんなに大きな金額,どうやって返すの!? 会社の経営もうまくいってないんでしょ? あたしのお給料じゃとても――」
「いや,そこは問題ない。もう借金問題は解決した」
「……えっ? 解決したって……どうやって?」
あたしが戸惑っていると,母が横から口を挟んだ。
「藤木グループの会長が,ウチの会社と懇意にして下さっててね。ウチが困ってるなら援助してもいいって言って下さって,借金を全額肩代わりして下さったのよ」
「そんなうまい話,あるわけ……」
藤木会長のことはあたしもよく知っていた。懐の広い人で,慈善事業も幅広く手掛けている人物だと。
でも,いくらそんなに太っ腹な人でも一億なんて大きな借金を何の条件もなしに肩代わりしてくれたとは思えなかった。