幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~
「――初めまして。田澤里桜と申します」
「ああ,父から伺っています。藤木正樹です」
正樹さんはあたしより五つ年上の当時三十歳だったけれど,第一印象ははっきり言って愛想のない人だった。あたしにニコリとも笑いかけてくれないし,話し方も素っ気なかった。
「あの……,正樹さん。父から聞いたんですけど,結婚したらあたしに仕事を辞めて家庭に入ってほしい,って。その条件,譲歩して下さるわけには……」
「譲歩? ハッ! するわけないだろう。女は結婚したら,家庭に入るのが当たり前だ」
ダメもとでおずおずと訊ねたあたしを,彼はバッサリと斬り捨てた。
それにしたって,もっと他に言い方があっただろうに。情のかけらも感じられなかった。
「パートで働くことは認める。それで不満はないだろう?」
「…………はい」
あたし,こんな人とこの先一生を共にしていかなきゃいけないの? この時のあたしは,絶望のどん底に放り込まれた気持ちだった――。