彼はクールフェイス☆~初カノは笑顔系~
いち
「は~、痛て…」
傷ついた体を引きずりながら、やっとのことで中庭の木に寄り掛かる。
また喧嘩を売られた。
いつもは逃げて済ませることが多いけど、今日はそうはいかなかった。
この間、たまたま通りかかった道端でどこかのばあちゃんが同じ高校の制服来た奴らに因縁付けられて囲まれてた。
ホントは関わらないで通り過ぎようと思ったんだけど…
「痛いっ!…この泥棒~!」
掠れた悲鳴。
突き飛ばされて倒れたばあちゃんと、逃げる野郎共。そのうちの一人手には黄色い財布が握られていた。
盗られたのか?
身体が反射的に動いた。
足には自信がある。加速しながらばあちゃんの横に鞄を放り出すと、逃げた奴らを追撃。
とはいえ、50メートル以上離れてたから、追いつくのに手間取ったけど、なんとか捕まえて財布は取り返した。
代償として、何発か喰らったけどしょうがない。
「ばあちゃん大丈夫?はい、これ…」
戻って財布を差し出すと、すげぇ喜んでくれた。
「ありがとねぇ。助かったよぉ。おろしたばっかの年金入ってたから……あ痛たたた」
「どっか痛い?」
「膝がちょっとね………転んだ拍子にぶったからねぇ、痛たた」
仕切りに膝を摩ってるばあちゃんを放って帰る訳にはいかなかった。
しゃがんで背中を向ける。
「乗って」
「なんだや、兄ちゃんこそボロボロでないの。私ゃ大丈夫だから、あんたこそ医者に診てもらわにゃ……」
「平気。ちょっと汗かいてるけど…嫌じゃなかったら乗って。送る」
ちょっと間があって、背中におぶさるばあちゃんの感触。
対して重くもないから、普通に立ち上がって歩き出す。
聞くと電車通学の俺が乗るJRの駅とは真逆の方向。
でもこの際乗りかかった船だ。仕方ない。