無知な君は罠にかかったことを知らない

「ハアッ……ハアッ……。ダメだ……。遅れちゃう……」

高校一年生としてこの学校に入学した瀬野奈々（せのなな）は、委員会へ参加するために廊下を走っていた。ホームルームが終わった後すぐに教室を出るつもりだったのだが、先生に呼び止められてしまったため、遅れてしまったのだ。

「ハアッ……ハアッ……。遅れてしまい、すみません……」

菜々は図書室のドアを開け、息を切らしながら言う。菜々は図書委員だ。読書が好きなため、この委員会に自分から立候補して入った。

「瀬野さん、大丈夫？」

「まだ始まったばかりだがら気にしないで」

先輩たちにそう言われ、菜々は「はい」と頷き自分の席へと向かう。先輩の多くが優しいのが救いだ。一瞬でも安心してしまう。

大好きな本に囲まれて幸せ、と言いたいところだが生憎菜々はこの委員会に入ったことを後悔していた。なぜならーーー。

「瀬野、お前こういう時は「すみません」じゃなくて「申し訳ありません」だろ？高校生にもなって敬語の一つも使えないのか？」