無知な君は罠にかかったことを知らない
「でもさ、あそこまで怒られるって菜々ちゃんって四ノ宮先輩に嫌われてるんじゃ……」

同じ一年生の人に小声で言われ、「そうかもね」と菜々は返す。しかし、創馬に嫌われていることが本当だとしても菜々は何とも思わない。創馬のことは「怖い人」として認識されている。好かれていると思う方がおかしいのだ。

「瀬野、遅れて来たくせに委員会くらいは集中しろ」

他にもヒソヒソと話している人はいるのだが、菜々だけが注意される。菜々はびくりと肩を震わせ、「何で私だけ……」と思いながら返事をした。



それからも創馬に怯えながら委員会に参加する日々が続いた。毎度のように厳しいことを言われ、今日も菜々は俯きがちに廊下を歩く。

「いつから嫌われてるんだろう……」

出会った初めの頃からずっと創馬は自分にだけ厳しい。いつになれば彼の優しさに触れられるんだろう、そんなことばかり最近は考えている。

その時、ドンッと菜々は誰かにぶつかってしまった。勢いよくぶつかったせいで菜々は床に尻もちをついてしまい、半分空いていたかばんから教科書や筆箱などが散らばってしまう。
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