無知な君は罠にかかったことを知らない
「恐喝の証拠、スマホでちゃんと撮らせたもらったから。これを生徒指導に持って行ったら今度は停学では済まないかもね」

「なっ……!」

先輩は怒りに顔を赤くし、創馬に近づこうとする。しかし創馬は涼しげな顔のままだ。

「俺を殴ってスマホを奪ったら暴行と窃盗だからね。警察に通報させてもらうよ」

慰謝料、逆にそっちが払うことになるねと創馬が言うと先輩は暴言を吐きながら去っていく。その後ろ姿を菜々はまだ震えの治まらない体のまま、見つめていた。

「立てる?」

創馬に手を差し出され、菜々は「どうして、私を助けてくれたんですか?」と訊ねながらその手を取る。創馬の手は思っていた以上に男性らしい大きな手だった。

「俺、最初から見たたんだ。瀬野は何も悪くないからな。放って置けない」

創馬はそう言った後、優しく微笑む。初めて向けられたその優しさに、菜々の胸がキュンと音を立てた。

創馬は廊下に落ちてしまった菜々の教科書なども拾い集め、「送って行くよ。あんなことがあったわけだし、不安だろ?」と言ってくれた。
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