無知な君は罠にかかったことを知らない

「あ、ありがとうございます……」

菜々は、胸に広がる不思議な感覚にドキドキしながら創馬の隣に立つ。創馬に優しくしてもらえるなどまるで夢のようだと菜々は感じた。

そして、この日を境に菜々の創馬に対する気持ちは少しずつ変わっていくことになる。



あの出来事があってから、創馬は菜々に対して優しくしてくれることが多くなった。当然の変化に菜々はもちろん、周りも驚いている。

「四ノ宮先輩、この本ってどこに置けばいいですか？」

菜々が訊ねると、一緒に本の整理をしていた創馬はニコリと微笑んで言う。

「それは歴史の本が置かれている棚だな。でも高いところにあるから俺が置くよ」

「えっ！？い、いえ大丈夫です！脚立に登れば何とか……」

本棚に向かおうとする菜々だったが、その手を掴まれて創馬に優しく頭を撫でられる。

「脚立から落ちて怪我するといけないから。だから俺に任せて」

「は、はい……。ありがとうございます」