蒼き臨界のストルジア
彼女は近場の波間に突き出た団塊に腰かけ、
イルカの鳴き真似をして「ピュウ」と鳴き始めた。
「何してるの?」
『ホイスル音』
「ホイスル音って?」
『イルカの声』
「へぇイルカの声はホイスル音って言うのか」
『違うイルカの声の1つ。
イルカの声は全部で3つ。
クイック、ホイスル、バーク。
人間に聞こえるのはその中の一部の音。
イルカが会話する時に使う言葉 』
そう言って彼女は笛をさしてつぶやく。
『これもホイスル音』
「でも聞こえなかったよ?」
『全部は聞こえない。
イルカの声の一部だけ』
そう言って彼女は再びイルカの鳴き真似をした。
それに答えるように二頭のイルカは、
「ピーピー」「キーキー」と鳴いていた。
「なんて言ってるの?」
『シグネチャーホイスル。
ホイスル音の1つ。
個体により異なる名前』
「それでピーピーとキーキーなんだね」
『うん』
そう頷いた彼女の顔を見て、
そう言えば彼女の名前を知らないことに気づいた。
「君の名前はなんて言うの?」
彼女は俯き腰かけた団塊を見つめて、
小さく呟いた。
『ノジュール』
聞きなれない名前だ。
外人なのだろうか。
「ノジュールちゃんか。
僕は真、海月真だよ」
『マコ 』
彼女は言いにくそうな発音で舌足らずにそう呟いた。
『言いにくい』
彼女はふてくされた様にふくれる。
「真はシンとも読むからシンでいいよ」
『シン?』
彼女はそう言ってから微笑んだ。
『シン』
僕は喜ぶ彼女にたずねる。
「君の名字はなんて言うの?」
『みょうじ?』
少女は不思議そうに僕を見る。
「えっと、名前の前につく名前だよ」
『ノジュールはノジュールだよ。
それ以上でも、それ以下でもないよ』
「そうなの?」
あまり深く聞かないほうが良いのかも知れない。
「ノジュールちゃんだね。
かわいい名前だね 」
『かわいい?』
彼女は少し考えてつぶやいた。
『愛してるの?』
いや愛って・・・
『美味しいの?』
いや美味しく頂こうとはしてないよ。
多分・・・
彼女は自分を指差しつぶやく。
『かわいい』
イルカを指差し囁く。
『かわいい』
僕を指差し囁く。
『かわいい』
『ノジュール、かわいい?』
「うんとってもキュートで、かわいいよ」
彼女はうつむきつぶやく。
『かわいい』
僕は話題を変えようと少女に話しかけた。
「ところでノジュールちゃん。
僕にもそのイルカの鳴き真似できる?」
『もっと気やすくノジュール様でいいよ』
全然きやすくねぇ~
「それはちょっとね・・・ 」