蒼き臨界のストルジア
. ─海から来た少女─
僕はその中に這い上がり、
その少女を抱き抱えた。
途端に腕の合間から彼女の幼い体熱が伝わり、
僕の胸を熱く焦がした。
そして意識を失って脱力するその体が、
思った以上に華奢なのに気づく。
濡れた髪が、
愛らしい卵型の輪郭をなぞり張り付いていた。
そんな幼き少女の顔が、
彼女がまだ年端もいかないのを物語っていた。
蒼白き燐光に抱かれ眠る少女は、
まるで深海の妖精だった。
彼女の息づかいがその鼓動が、
僕の動悸を速めてゆく。
まるで海の妖精を見つけた様な喜びで、
彼女の寝顔を見つめていると、
腕の中の妖精はうっすらと瞼を開け、
僕と目線があった。
彼女は放心した様に僕を見つめ続けた。
僕は何と言い訳していいか解らず、
ただ時間が止まったように
彼女を見つめ続けた。
悠久の時間、固まった世界が突然動き出す。
一際大きな波が船体にぶつかり、
波しぶきを上げ二人の頭上に降り注いだ。
夜気を纏った水飛沫が、
火照った体に染み込んで、
急速に五感が冴え渡るのを感じた。
その冷気に視界が鮮明になる感覚と共に、
磯の香りが鼻腔を刺した。
どこか懐かしく、海の幸を思わせる匂い。
彼女はそれで魔法が解けた様に辺りを見渡し、
そして再び僕を見つめた。
幼き顔を象る濡れた銀髪から、
悲しげに水滴が滴っていた。
僅かに動く幼い唇。
『ルシフェリンが酸化している』
ルシフェ・・・ ？
訳が解らず僕はただ彼女を見つめる。
彼女は青く光る海面を指差し再びつぶやいた。
『海蛍。 酸化。 ルシフェリン』
うみボタル！？
そう言えばお婆ちゃんから聞いた事がある。
この辺りの海辺には海蛍というのがいて、
夜中に蛍のように光るんだと。
青白く光るそれはまるで、
クリスマスのイルミネーションなんだと。
両親が亡くなって、
落ち込んでいた僕を励ます為に祖母がついた
昔話なんだと思っていた。
そんな昔話の果実は、
クリスマスのイルミネーションというより、
海原で漂う銀河のようだった。
海の中に広がる星屑の銀河。
