蒼き臨界のストルジア
 
僕はそんな青白き輝きに()いられたまま、
つぶやいていた。


海蛍(ウミボタル)、本当にいたんだな・・・ 」


彼女はそんな僕に(うなづ)く。


『うん』


無垢(むく)なその声に。


(だま)って僕を見つめる無防備な瞳に、
僕は()いられ思わず抱きしめたくなる。

そんな僕を不思議そうに見つめ、
彼女はたずねた。


欲情(よくじょう)しているの?』


一瞬その意味が(わか)らず考える。


浴場?浴場?欲情!?


人生のボキャブラリーに無いその会話に、
パニクになりかけた僕を見つめたまま、
彼女は再び(つぶや)いた。


子作り(こうび)?』

その言葉が、
彼女の容姿(ようし)とあまりにかけ離れていて、
彼女が何を言っているのかわからなかった。


深夜の海岸で男女が二人。

(ささや)かれた言葉。


      ─子作り(こうび)

      ─子作り(こうび)

       ─交尾(こづくり)



リフレインする声がいつまでも耳に残る。



目眩(めまい)する世界の中で押し(だま)った僕を、
彼女はいつまでもその答えを待つように
見つめ続けていた。


(あせ)る僕の心情さえ見透(みす)かすような
透明な視線が、僕を(とら)えて離さなかった。


「あの・・・」


僕は生唾(なまつば)を飲み込み言葉を(つむ)ぐ。


「女の子がその・・・
 だからその・・・
 子供は・・・ その・・・ 」


彼女は首を(かし)(つぶや)く。


『子供には?』


そのあまりに無垢(むく)な姿によからぬ妄想(もうそう)(よぎ)る。


このまま欲望の(すべ)てを吐き出す妄想が・・・


僕は大きく首を振り、その妄想を振り払った。


「うん。
 むっむっむっ・・・ 」


『む?』


無理かな・・・


彼女が首を(かし)げる。


邪念(じゃねん)が最後の言葉をつまらせ、
なかなか言葉を出させてくれなかった。


「子供がそんな言葉使ったらダメなんだよ」


ようやく(しぼ)り出したその言葉を、
彼女はあっさり受け流した。


『うん、わかった』


少女はそう言うと興味(きょうみ)を無くしたように
ポッドの(はし)に腰かけ、
足首を海水につけていた。


その余韻(よいん)にひたるまもなく無関心(むかんしん)に。


僕は一人その言葉に苦悶(くもん)する理不尽(りふじん)さに、
(いきどお)るのだった。


子供って残酷(ざんこく)だ・・・


そんな僕の手の上に小さな温もりが(かさ)ねられた。


小さな手から幼き体熱が伝わってくる。


彼女はまるで一人遊びするように、
扁平足(へんぺいそく)の小さな足で水面を蹴っていた。
 
 
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