はつ恋。
なんとか駅まで駆け抜け、手を離すと有馬くんが肩を大きく上下させながら私に呟いた。


「日奈子...サンキュ」

「何が?」

「色々」


色々...。

たぶん、今日のことも含めてのサンキュ、なんだろうな。


「電車の時間まであと5分みたい。だから、急ぐんだけど...」


私はバッグからカメラを取り出した。


「これで有馬くんを撮りたい。そこにベンチあるじゃん。ちょうどライトが当たって良い感じなんだ」

「分かった。日奈子のお願いなら、なんだって聞く」

「ありがと、有馬くん」


有馬くんは私の指示通りにベンチに腰かけ、電柱の光が眩しくて目を細目ながら上を向くという構図の写真の被写体になってくれた。


―――カシャッ。


これでまた1つ、思い出が増えた。

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