はつ恋。
その日、私は夏祭りに行っていた。

友達がいない私は、赤と黄色を基調とした浴衣を着て1人祭りに繰り出した。


―――パシャ。


写真好きの兄がかつて使っていたデジカメで、良いなぁと思う風景を収めていく。

一瞬一秒を切り取っていくこの瞬間が私は好き。

どうやら兄の影響をもろに受けてしまったよう。

並んで歩く姉妹の笑顔、

ツヤツヤしていて真っ赤なりんご飴、

子供の手から放たれてポシュンと軽やかな音を出す水ヨーヨー、

金魚すくいをしているカップル...。

カメラの中に

鮮やかで暖かで、

見返せば切なさに胸が締め付けられるような、

そんな幸せの瞬間が重なっていく。

そして、そんな瞬間を

自分の心の隙間に埋め込んで

幸せだって

寂しくないって

必死に思おうとしていた。

自分を騙そうと躍起になっていた。

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