翠玉の監察医 日出づる国
パソコンやコピー機が並べられた小さな事務所では、男性が俯きながら時折り目元に手を当てていた。その体は震えている。圭介の表情は苦しげなものに変わった。

「失礼いたします。お話を伺ってもよろしいですか?」

蘭が男性に話しかけると、男性は「Ele foi morto!(彼は殺された!)」と叫びながら顔を上げる。第一発見者の男性もブラジル人らしい。

男性は泣きながら何かを話すが、ポルトガル語のためわからない。圭介と桜木刑事は首を傾げて「どうします?」と言い合う中、蘭は冷静に口を開く。

「Calma por favor(落ち着いてください)」

蘭がポルトガル語を話したことに圭介は驚く。蘭は男性の背中に触れ、ポルトガル語で「ゆっくり息を吸って吐きましょう。そしてたくさん泣いてください」と言う。男性の目からはまた涙がこぼれていった。

「あ、ありがと。もう落ち着いた……」

しばらくして男性は片言の日本語で蘭にお礼を言う。蘭は「大丈夫です。突然大切な人が亡くなられたら誰でも取り乱してしまいます」と少し切なげな顔を見せながら言う。圭介の胸がギュッと締め付けられた。
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