翠玉の監察医 日出づる国
でも、とマルティンの話の続きをアーサーが話し始める。そこにあったのは笑顔ではなく悲しげな表情だった。

「外国人労働者は人として扱われない場合だってある。外国人だからと最低賃金しか払われなかったり、不当な解雇や暴力もある。この国は夢の島なんかじゃない」

圭介の顔が険しくなる。その時、蘭の頭に昔の記憶が蘇った。多くの大人たちが自分たちの仕事のことを自慢し、それを子どもに押し付けていく記憶だ。

「この国は、平和ですが生き辛いです」

その一言で部屋の空気はさらに冷えてしまった。



蘭たちはその後仕事を黙々と続け、やがて終業時間となった。時計の針が五時になった刹那、ゼルダとマルティン、アーサーは帰る支度を始める。

「所長と蘭と圭介も帰りましょう。もう五時だし」

ゼルダがそう言い、蘭は書類を書く手を止める。次にアーサーが言った。

「この前いいカフェ見つけたんだ。これからそこに行こうって話になっててさ。みんなで行かない?」
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