年下ピアニストの蜜愛エチュード
3 ジェラートよりも甘いキス
 店のオーナーは片桐啓一と名乗り、アンジェロだけでなく千晶も歓迎してくれた。

「いや、驚きました。来日したばかりのアンジェロが、こんなすてきな女性を連れてくるなんて」

 千晶は店の二階に併設されたカフェに通され、ジェラートと一緒にエスプレッソを振る舞われていた。順も出されたオレンジジュースをおいしそうに飲んでいる。

 このスペースはまだオープンしていないので、広い店内にいるのは千晶たちだけだった。

「いえ、そういうわけでは……あの、本当にたまたまなんです」

 妙な誤解をされたら、またアンジェロが気を悪くするかもしれない。

 しかし千晶が否定しても、啓一は「まあまあ」とニコニコしていた。

「俺、イタリアにいた時にこいつのご両親にお世話になりまして……アンジェロは弟みたいなもんなんです。せっかくいらしたんだから、ゆっくりしていってください」

「どうもありがとうございます。ジェラートもエスプレッソもすごくおいしいです。でも、こちらのカフェって、まだオープン前ですよね。お邪魔しちゃってすみません」

「いえいえ、かまいませんよ。ちょうど今夜は開店祝いのパーティーで使いますし」

 千晶たちがいるカフェはかわいらしいアイスクリームショップとは違って、上品で落ち着いた雰囲気だった。

 中央に大きなグリーンが飾られ、テラコッタの床には、しゃれたアイアンの椅子やターコイズブルーのソファがゆったりと配置されている。奥には大きなグラウンドピアノも見えた。

 ここでなら、確かに時間を忘れてくつろぐことができそうだ。

「実は今晩アンジェロがピアノを弾いてくれるんだけど、もしよかったら――」

「待って!」

 それまで黙ってジェラートを食べていたアンジェロが啓一を遮り、いきなり立ち上がった。

「あの――」

 千晶があっけに取られていると、「三嶋さん」と呼びかけられた。

「よかったら、僕と一緒に出てくれませんか?」

「えっ?」

「今夜のパーティーに」
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