年下ピアニストの蜜愛エチュード
 広い胸に抱かれていると、あたたかい波間を漂っているように安心できた。同時に、きらめく銀河に身を置いているような浮遊感も覚える。

「ティ・アモ・千晶。愛しているよ、心から」

 甘い囁きとキスが、雨のように絶え間なく落ちてくる。

 白い肌にいくつも所有の証を刻まれながら、千晶はようやくアンジェロと結ばれた。

「千晶、僕の千晶。どうかずっとそばにいてほしい」

 二人がひとつになってからも、アンジェロは髪を撫でながら、情熱的に愛の言葉を繰り返す。

「ツァーから戻ってきたら、順も連れて、一緒にイタリアに行こう。マンマやパパや、僕の家族に会ってほしいんだ。僕も千晶のご両親にご挨拶に行く」

「ありがとう、アンジェロ」

 けれどもそんな日は決して来ないだろう。

 彼と会うのはこれが最後だと、千晶はもう決めていた。

「ティ・アモ、アンジェロ。大好きよ」

 零れそうな涙に気づかれたくなくて、千晶は自分からアンジェロの唇に口づけた。
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