年下ピアニストの蜜愛エチュード
「あの、どういう方でしょう?」

「そうねえ。超絶美形スーパーセレブ男子……って、とこかしら。院長からも、くれぐれもよろしくって言われているの」

「超絶って――」

 直接的過ぎる表現に、千晶は思わずふき出してしまう。田崎の表情が大まじめなので、よけいおかしかった。

「あら、でも本当よ。他の人だと、ちょっと舞い上がりそうで心配なの。ほら、三嶋さんはスパダリ系の人が来ても、妙なアプローチしたりしないでしょ」

「はあ」

 ベリーヒルズの健診センターでは、日帰りコースの場合、基本的にひとりの看護師が担当する。レントゲンは技師が、またエコーや内視鏡検査と最後の診断は医師が行うが、問診や血液検査をはじめ、センター内の案内など、すべて終了するまでつきっきりで対応するのだ。

 もちろんほとんどの看護師は真剣に仕事をこなしているものの、中にはきらびやかな存在に目が眩む者もいる。過去には有名企業のCEOに自分の連絡先を渡し、問題になったケースもあったという。

(まあ、私には順もいるしね)

 千晶が幼い甥と暮らしていることは、田崎も知っている。

 そんな状況であれば、たとえ超絶美形スーパーセレブ男子が相手でも、妙な展開にはなるまいと判断したのだろう。

「わかりました」

「よかった。じゃあ、さっそく検査項目をチェックしておいてくれる?」

「はい。えっと、お名前は――」

 手渡された水色のファイルを開いた途端、千晶は息が止まりそうになった。

(う、うそ!)

 アンジェロ・潤・デルツィーノ――申込用紙に書かれていた名前はクラシック界の貴公子として有名な若手ピアニストのもので、今朝もアラーム音として、愛してやまないその優美な演奏で目を覚ましたのだから。
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