年下ピアニストの蜜愛エチュード
エピローグ
「順、レタスを洗ったら、ちぎって、このお皿にのせてね」
「これでいい、ちあちゃん?」
「うん、じょうず。じゃあ、次はトマトを切ってもらおうかな」
「わかったー!」
広々として明るいアイランドキッチンが好きなのか、最近の順はよく料理を手伝ってくれるようになった。
千晶と順は今、ベリーヒルズビレッジのレジデンスで、アンジェロと一緒に暮らしている。
十月になって急に寒くなったので、今夜のメインにはビーフシチューを作った。すでにキッチンにはおいしそうな香りが漂っている。
ふと、順がトマトを切る手を止めて、顔を上げた。
「ねえ、ちあちゃん」
「なあに?」
「保育園の友だちに訊かれたんだ。ちあちゃんとアンジェロは僕のママとパパになるの? そう呼んだ方がいい?」
「順ったら」
千晶は少し考えてから、身を屈めて順の手を取った。そのまま、膨らみ始めている自分のお腹に触らせる。
「好きなように呼んでいいよ。だけどどんなふうに呼んでも、順はこの子のお兄ちゃんだからね」
「お兄ちゃん?」
「そう。お兄ちゃんだよ」
あのリサイタルの後、間もなく千晶はイタリアでアンジェロと結婚式を挙げた。新しい環境では予想していた以上にとまどうことや、覚えなければならないことも多いが、来年の春にはひとり家族が増える予定だ。
「そっか」
順が納得した様子で頷いた時、玄関の戸が開く音がして、陽気な鼻歌が聞こえてきた。
今ではすっかり耳慣れた『ベリッシマ』――アンジェロが千晶のために作曲したセレナーデだ。
「アンジェロだ!」
順が弾かれたように玄関へと駆けていく。
「お帰り!」
「ただいま、順」
にぎやかなやり取りをしながら、アンジェロと順がキッチンへ入ってきた。
「これでいい、ちあちゃん?」
「うん、じょうず。じゃあ、次はトマトを切ってもらおうかな」
「わかったー!」
広々として明るいアイランドキッチンが好きなのか、最近の順はよく料理を手伝ってくれるようになった。
千晶と順は今、ベリーヒルズビレッジのレジデンスで、アンジェロと一緒に暮らしている。
十月になって急に寒くなったので、今夜のメインにはビーフシチューを作った。すでにキッチンにはおいしそうな香りが漂っている。
ふと、順がトマトを切る手を止めて、顔を上げた。
「ねえ、ちあちゃん」
「なあに?」
「保育園の友だちに訊かれたんだ。ちあちゃんとアンジェロは僕のママとパパになるの? そう呼んだ方がいい?」
「順ったら」
千晶は少し考えてから、身を屈めて順の手を取った。そのまま、膨らみ始めている自分のお腹に触らせる。
「好きなように呼んでいいよ。だけどどんなふうに呼んでも、順はこの子のお兄ちゃんだからね」
「お兄ちゃん?」
「そう。お兄ちゃんだよ」
あのリサイタルの後、間もなく千晶はイタリアでアンジェロと結婚式を挙げた。新しい環境では予想していた以上にとまどうことや、覚えなければならないことも多いが、来年の春にはひとり家族が増える予定だ。
「そっか」
順が納得した様子で頷いた時、玄関の戸が開く音がして、陽気な鼻歌が聞こえてきた。
今ではすっかり耳慣れた『ベリッシマ』――アンジェロが千晶のために作曲したセレナーデだ。
「アンジェロだ!」
順が弾かれたように玄関へと駆けていく。
「お帰り!」
「ただいま、順」
にぎやかなやり取りをしながら、アンジェロと順がキッチンへ入ってきた。