可愛くないから、キミがいい【完】
「食いたいものねーの?」
「別にないし」
「やりたいことは?」
「ない」
「あっそ。じゃあ、俺は山路のとこ戻るわ」
なんで私から先に解散しようって言うはずだったのに、和泉しゅうの方からいってくるわけ?
和泉しゅうはすでに階段を上って、私のクラスに向かおうとしている。
メロン味の飴はまだなくならないし、先に切り出されたことが少し気に食わなかったけれど、これ以上天使としてのペースを乱されたくないから好都合ではあるかも、と思い直して前を向く。
すると。
「………っ」
少し前からこちらに向かって歩いてくるひと組の男女に、私の世界は容易く傾いてしまった。
悲しきレーダーがある。
未だに、視界にはいれば、
即座に心臓を痛めつけるレーダー。
目線の先には楽しそうに喋っている、ふたり。
わざとらしく手は繋いでいないけれど、ぎゅっとくっついて二人の世界にいるみたいな雰囲気だ。
私といるときは全然喋らないし、笑わなかったくせに。優しい眼差しなんて、向けてこなかったくせに。可愛い?って聞かないと、可愛いって言ってくれなかったくせに。