可愛くないから、キミがいい【完】
和泉しゅうの瞳を捕まえる。
それから、つま先立ちになって背伸びをして、ゆるく和泉しゅうの襟元をつかんで引き寄せた。
そのまま、掠るように綺麗に唇をくっつける。
ためらいなんてなかった。
和泉しゅうへの気持ちも何もない。
ちぃ君たちへの当てつけのためだけの行為。
ちぃ君、みゆはもう君よりかっこいい男の子を捕まえて、とっても幸せなんだから。そういうことだけが、ちぃ君とおまけでその横にいる私より可愛くない幼なじみの女に伝わればいい。
きゃー、と外野からの黄色い声が鼓膜を刺激する。
そのまま、三秒後にゆっくりと唇を離す。
瞬きをゆるりと落として、もう一度和泉しゅうと瞳を合わせると、彼は眉を思いっきりよせて、目つきの悪い目をさらに歪めて私のことを睨んでいた。
「……あーそういうこと、な」
「……和泉君、」
「お前、ちょっとついて来いよ」
別に、キスのひとつくらいどうってことないでしょう?なんて思いながらも、完全に無許可だったので謝ってあげようと思ったのに、その前に手首をぎゅっと掴まれる。
目線の先で和泉しゅうは、ひどく怖い顔をしていた。
すでに、ちぃ君たちの姿は廊下の先、少し遠いところにある。
和泉しゅうの綺麗な顔が歪んでいる。
周りは未だに黄色い声で騒がしかった。視線が痛いし、この場にスポットライトがあるなら私と和泉しゅうが間違いなく照らされているのだろう。