可愛くないから、キミがいい【完】
「何言ってんだよ」
「だから、見せつけたかっただけだって。別にいいじゃん、キスくらい減るもんじゃないんだから」
はー、と溜息を吐かれる。
そのまま、顔が近づいてきた。
怒りの色に、軽蔑の色も混じっている。
目を逸らそうと思ったら、また低くて不透明な声がおりてきた。
「人のこと道具みたいに扱うのはよくねーよな。そんなことされて、いい気分だと思うか?」
「それは、ごめんってちゃんと思ってるもん」
「つーか、顔以外好きになったことないんだろ?なに?そのくせに執着してんだ?」
「……違うもん」
「そんなんだから、お前はつまんねーんだよ。つーか、自分が振ったくせに、相手の方が幸せそうにしてるからムカついたんだっけ?それで俺とキスしてんの見せびらかそうとしたんだろ?あのな、お前、世の中舐めすぎだわ」
本当は、振られたんだよ。
だから、余計にムカつくのだ。
だけど、和泉しゅうにはそんなこと、言えない。
どうして、こんなにこの人が怒っているのか分からない。溝に落とされても、次会ったときにはキレてこなかったくせに。
和泉しゅうの顔が、意地悪くゆがむ。
彼からは、いつもあるはずの余裕が少しだけかけているみたいだった。
「広野、いいこと教えてやろっか?」
耳元に唇を近づけられる。
嫌な、予感がした。
負の気配に、心臓の音がまじる。
そのまま、低いノイズが鼓膜に触れる。