可愛くないから、キミがいい【完】
あっさりとしゅう君に乗り換える決意をかためつつ、挨拶代わりにお辞儀をしたら、微かに頭を動かして、あんまり愛想のないお辞儀を返してきた。
「どーも。遅れてごめん。和泉しゅうです」
たぶん、私たちに向かって言った言葉だ。
低い声はクリアではなく少し掠れているけれど、鼓膜に心地よく響く。
それに、友達にも私たちにも、しっかり謝るところがちゃんとしていて、いい。
「いいですよー、来てくれて嬉しい」
油断していたら、なほちんがさっそく目をつけたようで、しゅう君の隣をとられてしまった。
一瞬の隙もなくて困ってしまう。
こんなことなら最初から、あおいくんをなほちんに譲っておけばよかった。
まあ、奪えばいいだけの話ではある。
「あー、でもただの人数会わせだから」
「おい、しゅうそれは言わない約束だろ!」
「知らねーよ。だから、なおさら遅れて申し訳なかったなってことな。そういう体ってこと言っとかないと、後々面倒だろ」
なほちんが隣にいるにも関わらず、全く気にすることもなく予防線を張り出す。
そういうところも悪くない。
しゅう君は、このカラオケはあんまり乗り気じゃないのかもしれない。
あおい君には悪いけど、私の意識はもう完全にしゅう君に向かっていた。
顔がいいからか、なんでもよく見える。
声もタイプだし、耳につけられたシルバーのピアスもいいなと思う。チャラくはないけど、適度に恋愛慣れしていそうなところもいい。