可愛くないから、キミがいい【完】




「楽しみだわ」と隣で呟いた声に、みゆは別に、というつもりが「みゆも」と返してしまった。


「広野、先行けば」


手で雑に誘導されて、乗り物に乗り込む。

ふうん、天使扱いもできない和泉しゅうのくせに一応レディファーストくらいはできるんだ、なんて嫌味なことを思っていたら、すぐに、和泉しゅうも隣に座ってきた。


「お前、ジェットコースター平気?」

「聞くタイミングが間違ってるけど」

「確かに」


まあ、大丈夫そうだな、と薄暗いなかで、和泉しゅうが小さく笑ったのが分かった。


絶叫系は平気だ。

ただ、髪が乱れてしまうのが嫌なだけ。


和泉しゅうは、きっと絶叫系が好きなのだろう。

ちら、と横を見れば、目つきが悪い癖に瞳はほんの少しきらきらしていて、幼い少年みたいだと思った。



今から乗るものは、屋外のジェットコースターとは違って、落ちる傾斜も緩やかだし、どちらかというとスピードを楽しむアトラクションだ。

人工的な星がちかちかしている中を駆けていくような感覚が気持ち良くて、暗闇だし表情を取り繕うこともなく、もっといえば、隣にいるのは和泉しゅうなのだから可愛くいる意味もなく、純粋にアトラクションを楽しんでいたら、あっという間に終わってしまった。


はじめに乗るアトラクションとしては、頭も冴えたし、ちょうどよかった。



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