可愛くないから、キミがいい【完】
5.不本意なノクターン
テーマパークのゲートの外へ出るまで、和泉しゅうとは一言も話さなかった。なんとなく、そういう気分だったから。
和泉しゅうは、長い脚を窮屈そうに前に出して、相変わらず私のペースに合わせるように歩いていた。
なんだか、それをちゃんと確かめたくなって、途中でわざと歩く速度を遅めたことは、あまりにも馬鹿げているので、内緒の話だ。
ゲートを出て、カチューシャを外す。
和泉しゅうは、もう首にかけたことも忘れてしまったのか、そのまま歩いていた。
携帯の電源をつければ画面に時刻とSNSの通知が表示される。時刻は21時15分で、これから帰るとなると、本当にギリギリだ。
ゲートを出て、少し歩いて駅へと向かう。
どうしたのか、駅に近づけば近づくほどに何やら騒がしくなっていき、周辺には、かなりの人がいた。
「何かあるの?」
「いや、知らね」
警察なのか警備員なのか分からないけれど、蛍光のスティックで誘導している人たちもいる。
土曜の夜、ということだけでは、説明がつかないくらいの人だかりに、首を傾げていたら、私の隣で和泉しゅうが携帯をスラックスのポケットから取り出した。