可愛くないから、キミがいい【完】
それで、結局。
空気も読まずに眠りの挨拶を自分から口にしたはずなのに、涙の代わりに「……本当は、みゆが振られたの」なんて、死ぬまで一生、誰にも言うつもりのなかった言葉を零してしまった。
何のことを言っているのか和泉しゅうは分からなかったのだろう。
「なに?」と、また毛布の下で足をあててくる。
今度は、とん、とやり返してやった。
そのまま足が触れあったままになってしまっていたけれど、かまわず、言葉をゆっくりと吐き出していく。
「……みゆの元カレ。ミスターコンの写真のひと。………ほら、和泉くんにみゆがキスしたときに廊下にいたでしょ」
「女と一緒にいたやつ? そいつに自分の方が幸せだって見せつけるために、お前は俺にキスしたんだろ。お前が振ったんじゃなかったの?」
「……ううん。振られたんだってば。だから、自分はもう、あんたのことなんてこれっぽっちも引きずってないし、幸せなんだからって、どうしても、どうしても、その人に思わせたかった。……みんなには振ったって言ってるけど、本当は、みゆがその人に、振られたの。しかも、電話で。会って別れ話もしないような人だった。それが好きのパーセンテージに直結していることくらい、みゆは、分かるよ」
こんな屈辱的な真実なんて、全部自分の都合のいいように塗り替えてしまえばよかったし、今まで、プライドを傷つけられるようなことがあったらそうしてきたけれど、この男になら、なぜか自分の汚点を押し付けてもいいのではないかと急に思ってしまっていた。
泣いてしまうことよりも、
私は、いま、言葉にすることを選んでいる。
ついさっきの“魔が差した”キスの余韻が自分の知らぬところで続いてしまっているのかもしれなかった。
天井を見つめながら、
ゆっくりと瞬きを繰り返す。
なぜか心は少し穏やかになってきている。