可愛くないから、キミがいい【完】
「……みゆは、振られたのも、大切にされなかったのも、他の女の子の代わりだったのも、ちぃ君が初めてだったの。電話で振られたとき、その幼なじみのことを忘れたかったからみゆのこと利用したって正直に言われた。みゆは、ちぃ君に利用されて、和泉くんはみゆに利用されて、……おかしいよね。サイアク。いいことなんて、なんにもない。でも、みゆはそういうことをたくさんしてきてる。それで、もうずっと、みゆは可愛くいるのに、全然しあわせじゃない、幸せになりたいのに、なれない。いちばん幸せでいたいのに。…………なんて、どうして、こんなことまで、あんたに話しちゃってるんだろ」
「……広野、もしかして、その男のことちゃんと好きだった?」
ちぃ君のことを好きだったかどうか。
冷静に考えてみたら、どこまで純粋な気持ちであるかは、自分でも今更はかることなんてできない。
だけど、前も言ったはずだ。
すごく、悔しいけれど。
「……今まで、いちばん、本気だったと、思う。いちばん、ひどい恋だったのに、いちばん、本気だった」
「で、そいつにお前はいっぱい傷つけられた?」
そう聞いてきた和泉しゅうの表情が、どんな風なのかは、見えないから、知らない。だけど、クリアじゃない低音は、甘やかすような温度で私の鼓膜に響いた。
とても、優しい声だった。
和泉しゅうのくせに、そんな声を出すなんて、ずるい、と思った。それも、いま、このタイミングでだなんて、本当に。
そう思いながらも、気づいたら、私はゆっくりと頷いていた。
その途端、目の奥がまた熱くなって、
今度はこらえきれずに、涙が溢れてしまった。
「……傷、ついた、」
すごく、本当は、傷ついていた。
そのことはもうずっと前に認めていたし、和泉しゅうにも学祭のときに言ってしまったはずだけど、今、なんだか、本当の意味で、そのことを認められているような気がした。