可愛くないから、キミがいい【完】





「あいつ、そんなにろくでもないやつだったんだな。無害そうな顔してたけど」


和泉しゅうが、私の髪に触れたまま、呆れたような口調で言う。



「振ったとか振られたとかどうでもいいけど、別れて正解だろ。お前よりろくでもねーよ。男からしても、最低だと思うぞ」

「う、ん」

「でも、そういうやつはたいして幸せにならねーんだよ。自分のために犠牲にしたものは一生ついてまわるから。一番可哀想で、残念で、最低で、不幸なのは、お前じゃなくてそのちぃ君とかいうキモいあだ名のそいつだよ。今は幸せそうに見えても、いつかお前を傷つけた分だけそいつは不幸になるから、お前は、大丈夫なんだよ」

「………なんだか、その理屈うそくさいんですけど」

「何とでも言えよ、泣き虫。俺は、因果応報を信じるけど」

「みゆは、泣き虫じゃない、泣いてないもん」

「あっそ。でも、本当に、お前別れて正解だったと思うよ」



和泉しゅうが言わなくても、そんなことは分かっているし、そうなるしかなかった。

だから、今、私は和泉しゅうの隣にいるのだ。



あやすような撫で方が、とんとん、と弱い振動を加えるものに変わり、「広野」と名前を呼ばれたかと思ったら、その瞬間、手のひらの動きが止まった。


なに、とこころの中だけで、返事をする。

顔はシーツに埋めたまま。


ほんのわずかに、和泉しゅうの気配が近づいたのを感じた。

なに、と今度はちゃんと声に出そうとしたけれど、その必要はなく。



「仕方ないから、俺がそばにいてやるよ」


鼓膜のすぐ近くで、不透明な、それでいて、柔らかい声が響いた。




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