可愛くないから、キミがいい【完】
「………偉そうに。みゆは、望んでない。なにも仕方ないことなんてないもん」
「ははっ、言うと思った」
「……何なの」
顔はあげない。
和泉しゅうのほうなんて、絶対に見ない。
「確かに、仕方ないことはねーな。
じゃあ、ただ、そばにいてやる」
だけど、とても。
―――和泉しゅうが、いま、どんな顔をしているのか、見たいと思った。
意味が分からない。
どうせ、目つき悪く、笑っているだけだ。
だから、見たいだなんて、全然、思いたくない。
そのまま、毛布を引っ張って、頭の上までかぶる。こんなの本当にしゃれにならないくらい可愛くない行為だ。
「………あんたが、私の傍にいたいんじゃないの。言い直したら?」
「ははっ」
そんなことはありえないと思って挑発しただけなのに、和泉しゅうは軽やかに笑う。
「変なの。……みゆのこと好きでもないくせに」
「文句しか言わねーのな」
「あんたに言われたくないし」
「なんでだよ。ウゼェな」
「……みゆも、ウザイって思ってるもん。……でも、仕方ないから、……いいよ」
「なにが」
「………これから、みゆの、そばにいてもいいよ」
毛布越しの声は、少し不明瞭だ。
きっと、和泉しゅうの方にも私の声はあんまりクリアに聞こえていなかっただろう。
それで、いいと思った。
「広野」
「……なに」
「分かった。てことで、今度こそ、本当に寝るから。おやすみ」
「ふぅん。……………おやすみなさい」
毛布をかぶって、和泉しゅうに背を向けたまま、今までのことで少し慌ただしくなっていた心を落ち着かせる。
真っ暗じゃないとよく眠れないけれど、仕方ないから、明かりに関しては折れてあげることにした。本当に、仕方なくだ。
どちらのほうが先に眠ったのかは分からないけれど、気が付いたら、私は眠りの中に落ちていた。