可愛くないから、キミがいい【完】






和泉しゅうが、歌い終わって、
マイクをテーブルに置く。

ひとりでぐるぐると考えを巡らせていたことが恥ずかしくなって、誤魔化すように烏龍茶を飲む。

一方の和泉しゅうは、何にも考えていなさそうな表情で、欠伸をした。



「……和泉くん、次、みゆと一緒に歌ってもいいよ」

「なんで」

「一緒に歌うと、今のみゆたちなら、楽しい気持ちになれるかもしれないでしょ。分かんないわけ?」

「悪いけど、すでに、すげー楽しいのな」

「もっと、なるかもってことなんですけど」

「じゃあ、いーよ。何歌いたいんだよ」

「……オアシス」

「オアシス?」

「うん。………Let There Be Loveがいい」




パパとママの特別な曲だ。

パパがプロポーズをしたお店で流れていた曲だったらしくて、そのときのエピソードを何度もママから聞かされている。

だからか、いつの間にか、
私の中でも特別な曲になっていた。



洋楽をたくさん聞くわけではないけれど、オアシスとカーリー・サイモンはよく聞いている。

ちょっとだけ年代が古いから、これも天使としてはいまいちな気がして誰にも言っていない。

だけど、とても素敵な音楽だ。


大切にしているから、少しでも否定されたら傷ついてしまう気がして、言えなかった部分もあると思う。



いま、それを、和泉しゅうと一緒に歌いたいと思ってしまった自分に対して、なぜか泣きたくなる。

奇妙な涙腺の刺激を最近何度か感じていた。





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