可愛くないから、キミがいい【完】
歌い終わって、烏龍茶を飲む。
和泉しゅうは、一度部屋を出て行ったかと思ったら、すぐに、ホットココアを片手にもって、戻って来た。
パンケーキを食べた後に、甘ったるい飲み物を何杯も飲める気持ちが分からないけれど、甘党の彼にとっては普通のことなのだろう。
もう十分にカラオケを楽しんで、満足していた。
そろそろ終了時間がくるのでは、と携帯を確認していたら、タブレットの画面には、〈15分前となりました。お忘れ物にご注意ください。延長される場合は〈はい〉、お帰りになられる場合は〈いいえ〉を押してください〉と表示される。
タブレットからはアラーム音が鳴っているので、〈いいえ〉のボタンを押して音をとめる。
騒がしさの止んだ部屋。
ちら、と隣をみあげたら、ココアのカップに口をつけている和泉しゅうとぱちりと目が合った。
その瞬間、和泉しゅうは、カップをテーブルに下ろす。それから、背もたれのところに頬杖をついて、上半身を私の方に向けてきた。
触れるくらいそばにいるのだから、
わざわざ向き合わなくてもいい。
ムッとした顔をどうしてもしてしまう。
だけど、そうすることで、
言いたいことが言えてしまうのだ。
「………今日も、みゆ、楽しかった、かも」
「うん」
「………誘ってくれて、ありがと、は、今日もちゃんと思ってる、から」
「……はは、うん。分かってる」
「なんで、笑うわけ」
「いや? なんでもないけど」
「なに?」
「…………ちょっと、やべーなって思った」
「はあ?………みゆが?」
「ううん。違う。お前じゃなくて、おれが」
「それなら、いいけど」
「いや、あんまり、よくない」
ココアの甘ったるい匂いがすぐそばでしている。
部屋に流れている空気も、
なんだか、甘ったるかった。