可愛くないから、キミがいい【完】





不意に、和泉しゅうの唇が私の下唇を食んで、それから、顎に小さなキスを落とした後、首へ向かった。

ぎゅっと、制服の裾を掴む手に力を入れてしまう。それが、和泉しゅうにも伝わったのだろう。



首筋に落ちてくると思った唇は、
触れる前に、ゆっくりと離れていった。

そのまま、和泉しゅうが、状態を起こして、
こくん、と大きく喉仏を震わせる。


瞳の温度を下げて、は、と少しだけ笑ったかと思ったら、手を差し出される。起き上がれ、ということなのだろう。自分勝手で、最低だ。

だけど素直に手を取って、身体を起こした。



「さすがに、こんなとこではないわ」

「……本当だし、ありえない」

「怒ってんの?」

「………別に。ちょっとだけ」

「あそ」



また、手が伸びてきて、髪を撫でられる。

「なに」と睨んだら、「ぐちゃってなってただけ」と、和泉しゅうはすぐに手を下ろした。



それから、また、タブレットが鳴る。

五分前を告げるアラームだった。
すぐに、和泉しゅうが止めてくれる。



「そろそろ出るか」

「うん、出る」


立ち上がる前に、暗くなったタブレットの画面に、ふと目を向けたら、不貞腐れている、あまりにも可愛くない自分の顔が映っていた。

思ったよりも何倍も、天使とは程遠い表情をしていたから、自分自身に驚いた。


髪を整えて、おきにいりの髪留めを外してもう一度留め直す。


タブレットの画面で確認できたけれど、部屋を出ていこうとしていた和泉しゅうをあえて、呼び止めて、「みゆの髪、ちゃんとなってる?」と聞いたら、「おー、完璧」とムカつく適当な返事が返ってきた。


やはり、私がどうであっても、
和泉しゅうは、和泉しゅうなのだった。






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