可愛くないから、キミがいい【完】
たこ焼き屋についたら、唯人君が10個入りのたこ焼きを注文してくれて、店の外にあったベンチで並んで食べた。
寒い季節に、ぴったりの食べ物だ。
ぴたりと半身をくっつけて、味わう。
爪楊枝に刺したたこ焼きを、唯人君の口元にもっていったら、嬉しそうな顔で口をあけてくれた。唯人君も同じように、私の口元にたこ焼きをもってくる。
食べさせあいなんて馬鹿みたいなことも、美男美女がやれば様になるのだ。こういうことを躊躇いなくしてくれる相手の溺れ具合に安心していたりする。
和泉しゅうなら絶対にしないだろう。アホかよ、やらねーよ、と言って、ゲンナリした表情を浮かべるのだろう。それをしている人たちを見たらば、白けた顔をするのだろう。
和泉しゅうなら。和泉しゅう、なら。―――なんて、無意味ななことを考えない。
「たこ焼き美味しいし、いま、唯人君いて、みゆ、うれしい、なあ」
「よかった。俺、みゆといると、ときどき、高校生に戻った気分になる。みゆが同じ学校だったら、楽しかっただろうなーって」
「みゆも、唯人君みたいな男の人が同じ学校にいてほしかったなあ」
「まあ、俺はもう、大学も後半戦にはいってるんだけどね」
もしも同い年で、同じ学校だっとしても、付き合うことになっていたかどうかは分からないけれど。
たこ焼きを食べ終わって、黒髪にした理由を尋ねたら、就職活動に本腰をいれはじめた、と言われた。
前に会った時よりもほんの少しだけ、私を見つめる唯人君の目に焦りの色が浮かんでいるように感じたのは気のせいか。『みゆと付き合いたいけど、俺と付き合う気はないでしょう?』とは、もう言わないみたいだった。