可愛くないから、キミがいい【完】
「おじゃまします」
唯人君の部屋は、相変わらずすっきりと片付いていて、清潔なにおいがした。ハンガーにかかったスーツが部屋の隅には二着並んでいて、彼が就職活動をしているというのは本当であるらしかった。
ふかふかのソファに腰かけたら、唯人君も私の隣に座る。
顔をのぞきこまれて、そのまま、ちゅ、と触れるだけのキスされた。
すぐに離れていった顔は、まだ、困ったように笑っている。
私のことを可愛いと思っている顔。
可愛い私を好きだと思っている顔。
唯人君の好意は天使の輪郭をはっきりとさせてくれる。
「みゆと、会った時から、ずっとキスしたいと思ってた」
「キス、だけ?」
「そんなわけないでしょ。みゆ、今日もはぐらかすの?」
永遠にはぐらかすつもりでいた。
曖昧に笑って、欲しい言葉と感情だけ受け取って、門限の前に、別れる。
今日もそうするつもりだった。
だけど、なんとなく、聞いてみたくなる。