可愛くないから、キミがいい【完】
「………唯人君が、みゆに会いたいのは、みゆとキスしたいのは、みゆが可愛いからですか?」
上目で唯人君を見つめたら、唯人君の目が少し揺れた気がした。
こんなことを男の子に尋ねたのは初めてだった。どうして聞こうと思ったのかは分からない。憎むべき男のせいかもしれなかった。
唯人君が、ぐっと顔を近づけてくる。
整った顔にも、今はなぜかときめかない。まだまだ、和泉しゅうと会う前の自分に完全に戻るまでには時間がかかるのかもしれないと思ったら、ウンザリするし、苦しかった。
順応性が高いはずなのに。
ここは、唯人君の部屋なのに。
私は、完璧な可愛い自分に戻ることしか、望んでいないのに。
「みゆが、可愛いからだよ。いちばん、可愛い」
「……唯人君は、みゆのことを、好きでいてくれるの?」
「うん。困ったことに、ずっと好きだよ」
「それで、付き合いたいと、思うの?」
「それ、みゆにちゃんと聞かれたのは、はじめてだな。だけど、そうだよ。バイト先で出会った時から、ずっと思ってる。でも、みゆは、俺と付き合う気がないみたいだけどね。でも、今まで、ちゃんと言ったことはなかったにしろ、遠回しにずっと伝えていたつもりだよ。それをみゆがぜんぶ分かってくれていて、そのうえで、はぐらかされてきたことも、俺は理解しているけど。可愛いから、許していたいって思ってた。……みゆ、今日は、はぐらかさないんだ?」
「唯人君は、どうして、みゆと付き合いたいと思うの?」
唯人君の質問には答えずに、質問を重ねたら、「みゆが、一番かわいいから」という答えが返ってきた。
わたしが、一番かわいい。それがすべてだ。
それは、模範解答であり、ただ嬉しく思えばいいはずなのに、いま、完璧には喜べていなくて、どうして、と思った。
「……それ、だけ?」
それが、すべて、なのに。