可愛くないから、キミがいい【完】
「みゆのことが好きだから、そろそろ付き合ってほしい」
「…………、」
「中途半端なのは、やめたい。俺も、苦しいし、もう、ふらふらしてられないから」
頬を包まれて、親指で丁寧に擦られる。
「好きだよ。みゆのことが、本当に好き」
切実な言葉を、簡単にはぐらかすことができるほどずるくはなれない。全然知らない男の子ではなくて、信頼している唯人君だから。
ゆっくりと頷いて、口を開く。
「……ちゃんと、考えるから、時間をくれませんか?」
「……分かった」
「みゆも、唯人君のこと、好きになりたい」
今日一番、可愛い顔をつくって、
上目遣いでそう言った。
偽りではなく、本心だった。
もう、なににも裏切られたくない。
可愛いがすべての世界で生きていく。
一生付き合うことはないと思ったり、やっぱり付き合ってあげてもいいと思い直したりして、今まで適当に考えていた唯人君との関係を、いま、ようやくちゃんと考えようと思えていた。
唯人君は、嬉しそうに笑って、
ぎゅっと優しく私を抱きしめてきた。
ゆっくりとその背中に手を回したら、もう一度「好きだよ」と耳元で言われる。
その瞬間、本当は、その言葉を違う男の口から私は聞きたかったのだと、思うだけ無駄なことを思ってしまって。
結局、まだ吹っ切ることができていないということを思い知り、少しだけ泣きたくなった。
だけど、好きになりたい。唯人君のことを。
妥協は大っ嫌いだ。
それでも、傷だらけの過去を闇に葬るためには、間に合わせの恋で、今は充分なのかもしれないと思う。