可愛くないから、キミがいい【完】
気を抜くと、和泉しゅうという存在が、脳裏をよぎる。
引きずらないと決めたけれど、不意によぎるのだから、自分ではどうしようもない。
ママがいうように、和泉しゅうのことも、いつか、そんなこともあったなあ、と思えるようになるのだろうけど、悔しいことにそうなるには、まだ時間がかかりそうで。
カラオケで一緒に歌った曲は、ちゃんと聞けない。甘いものを食べるのも避けている。
ただ、そのおかげで、肌の調子は前よりもずっといい。
それに、可愛い自分でいよう、と密かに情熱を燃やしているからか、声をかけられることも、告白される回数も、増えた。
何かが足りない、のではなく、いらないものが離れていった、ということなのだ。好きになりたい、は、好きになれる、ということで、傷つけられなければ、幸せになれるはずだ。
魔法なのか呪いなのか分からないものを、自分にかけ続けて可愛さだけで息をする。
それが、私の、あるべき日々だと信じているし、これからも信じていたい。
―――思いがけないことが起こったのは、そんな毎日を過ごしていた矢先のことだった。