可愛くないから、キミがいい【完】







「唯人君!」


遠くから声をかけて、可愛く手を振った。

唯人君はすぐに、私に気づいて爽やかな笑顔で手を振り返してくれる。



彼の元へ向かう途中で、「みゆちゃんの新しい彼氏?」と、知らない男の子に聞かれたから、「へへ、どうだろうなぁ」と、完璧な照れ笑いを浮かべながら答えておく。

きっと、次に聞かれたときには、ちゃんと「そうだよ?」って言えると思う。




今日も今日とて、
唯人君に悪いところなんてない。

スーツ姿だから、きっと就職活動とやらをしてきたあとなのだろう。同世代の男の子たちよりも大人で、スーツ姿だと二割増しで魅力的にみえる。


足りない、ではなくて、自分に必要のないものが離れていった、ということ。

何度も唱えた呪文をこころのなかでまた唱えながら、唯人君の前に立つ。




「お待たせ、です。来てくれて、ありがとう。……唯人君、かっこいいから目立ってるよ?」

「みゆ、おつかれ。俺、高校生に紛れられていると思ってたけど、だめだった?」

「こんなにかっこいい人、みゆの高校にはいないもん」

「なにそれ。みゆはすぐ俺のことを喜ばせようとするから、ずるい」



そう言って、
唯人君はうれしそうに口角をあげた。

未だに唯人君の告白に対して、首を縦に触れないから、喜ばせてあげたい。そういう気持ちが頻繁に働く。


せめてもの、天使の思いやりだ。




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