可愛くないから、キミがいい【完】
結局、裏切ったのは、私だけだったということだ。
和泉しゅうの罪悪感からくる情けが原因ではあったけれど、勝手に私が、勘違いをしていただけだ。
それなのに、誤解が解けた今も、和泉しゅうは、私をひとつも責めようとはしない。
わかりやすい優しさではないけれど、
それは、確かにこの男の優しさなのだと思った。
泣き止まない私の前で、和泉しゅうが徐に制服のポケットから携帯を取り出した。
泣きながらも、不審に感じて、何?と思っていたら、彼は携帯を耳元にあてたから、誰かに電話したのだと分かる。
私が泣いているのに何なわけと、と文句を言う前に、電話が繋がってしまったみたいで、「りほこ? 俺。しゅうだけど」と、和泉しゅうが、ほんの少し怠そうな声で女の子の名前を呼んだ。
それだけで、胸がチクリと痛んで、終わりは引きずらないと決心して和泉しゅうを忘れようとしていた少し前の自分と、「可愛い」武装を徹底して昔に戻ろうとしていた今日までの自分が、あっさりと遠ざかっていって、そのかわりに、まだしっかりと和泉しゅうへの恋心が自分のなかにあることを、もう、認めるしかなかった。
裏切られていても、結局、忘れられなくて、大嫌いと思っていないと苦しくなるくらいには、好きだったのだ。
かけ続けていた呪いが、とけていく。
足りない、は、足りない。
なんにも、裏切られていなかった。
それならば、必要じゃなくても、
和泉しゅうに、そばにいてほしい。
そう思いながら、じっと携帯を耳に押し当てる和泉しゅうを見つめる。