可愛くないから、キミがいい【完】
「いきなり、電話して悪かったな。………あー、会うとかそういうことで、かけたわけではない。なんか、SNSに俺の動画とか画像とか、色々載せてるだろ。あれ、悪いけど、消して。つーか、よく考えたら許可してないし、勝手に載せんなよ」
ちら、と和泉しゅうが私に目を向ける。
電話の向こうの女の子の声は聞こえない。
はやく切ってほしくて、ムッとした表情をつくったけれど、あっさりと躱されて、和泉しゅうは言葉を続けた。
「誤解されたから。好きなやつに誤解されて、俺、今、溝に落とされてんだわ。あと、もう、まじで、会わない。色々、悪かったな。付き合ってるときも、全部、悪かった。まあ、そういうことだから、SNSに載せてる俺の写真とか動画、今、消しといて。じゃーな」
お別れの挨拶を口にして、すぐに和泉しゅうは携帯を耳から遠ざけた。
やっぱり、切り方は雑である。
だけど、他の女の子への電話だから別にいい。敵相手に、優しい世界にいてほしいだなんて祈れない。
睨んでいるのか見つめているのか、自分でも分からなくなってきたけれど、和泉しゅうのほうに目を向けたままでいた。
「………みゆ、消してとか、頼んでない」
やっぱり、口からは可愛くない言葉が出てきてしまう。頼んでいないけれど、言ってくれて、嬉しいと思っている。
「特別」は、誰も犠牲をださないような綺麗なものじゃない。
「俺が、勝手に頼んだだけ」
「……うん」
「まじで、SNSほとんどしてねーから、知らなかった。お前がそんなの見るとも思わなかった。本当のことなんて、知っておいてほしいやつだけに知られていればいいし、正直誰にどう思われてもいいけど、こういうのは、困るな」
そう言って、和泉しゅうが微妙な顔をした。
目つきは悪いのに、
目じりの皺だけが優しかった。
それで、わたしは、また。
この男が好きなのだ、とおもってしまった。