可愛くないから、キミがいい【完】
「なあ、広野」
「……なに」
「まじで、好きだよ」
和泉しゅうの言葉は、甘ったるさのない、爽やかなものとして、鼓膜に響く。それでも、私の脳は勝手に糖度を混ぜてしまう。
今まで何度も、色々な男の子からもらってきた言葉なのに、そのどれとも違う場所に、和泉しゅうの気持ちは、すとん、と落ちていった。
「………さっき、聞いたもん」
「お前がいまいち信じられねーみたいな顔してるから言ってんだろ」
「だって、和泉君といるときの、みゆなんか、やっぱりなにも可愛くないんだもん。好きになんて、絶対になれないはずだって思ってた、から。みゆだって、はいそーですか、ってすぐに、完璧に思うのは、難しいんだもん」
「なんだそれ」
はは、と、息を抜くように笑われる。
先に、白旗をあげたのが、和泉しゅうなら、私も、そろそろ降参してあげようと思った。
こくん、と唾をのみこんで、口を開く。
「みゆは、」
「うん」
「みゆは、あんたのことだいっきらいで、でも、…………………すき、かも」
こんなにも可愛くない言い方が、
あるのかと自分でも嫌になる。
だけど、和泉しゅうは、ゆっくりと頷いて、私の方へ手を伸ばしてきた。
恐る恐る触れたら、そのまま、手首を掴まれる。立ち上がって、溝から引きあげるのを手伝ってあげた。
正しい地上で、向かい合う。
未だかつてない、最低な告白シチュエーションだ。溝にはまった男に好きだと言われて、可愛くない泣き顔をさらしたあと、好きだと言い返した。
映画のワンシーンには絶対にならないし、ロマンチックの欠片もなく、あまりにもお粗末だ。
だけど、私は、忘れないだろう。
この先もずっと、
今日のことを、覚えていると思う。