可愛くないから、キミがいい【完】
「まじで痛いからな。お前、俺のこと溝落とすの、二回目だぞ」
文句が降ってきて、顔をあげる。
じっと和泉しゅうを見つめて、
謝る代わりに頷こうとした。
だけど、その前に、和泉しゅうの顔が近づいてきて、触れるだけのキスをされた。
すぐに離れていったけれど、
その感触に、また目の奥が熱くなる。
俯きたかったけれど、それよりも、どうしても、目を合わせたままでいたかった。
「………本当は、和泉君のこと、ずっと、こころの中では、和泉しゅうって呼んでた」
「それ今言うことなのかよ」
「いま、言いたかったから」
「あそ」
「和泉しゅう、………みゆの、どこが好きなの」
思い切って聞いてみたのに、その瞬間、ふ、と和泉しゅうが鼻で笑ったから、さすがに腹が立って、脛を蹴る。
暴力は反対だ。
でも、今笑うのはありえない。
「いてぇわ」とすぐに文句が飛んでくる。
返事をせずに、ぎゅっと唇を結んで、質問の答えを待っていたら、和泉しゅうは、とん、と靴のつま先を私のローファーにあててきた。
「可愛くないとこ」
「は?」
「こう見てほしいとか、こうありたいとか、そうやって作った自分のことばっかり大切にして、そうじゃない自分のこと、お前は、あんまり上手に大切にできてねーんだなと思った。だから、そういうところをお前の分まで大切にしたくなった。猫かぶりも、お前の正義ならいいと思うけど、猫かぶってないときのお前も大丈夫だって、俺はお前に思わせてたいんだろうな」
「………なにそれ」
「すぐ文句ばっか言うくせに、ちゃんと言うべきこととか自分の気持ちは頑張って伝えようとしてくるのが、いーなと思った。素直じゃない不器用なとこも、なんかいーなと思った。誰にも言わないで、自分だけで大事にしてる音楽とか映画とか、お前、いっぱいあるだろ。そういうのも、いーなと思った。これから、たぶんそばにいたら、ムカつくこともたくさんあるだろうけど、いーなって思う部分が増えていくんだろうなって確信してた。いーなって思うお前の部分を知ってくのは、俺がいいんだわ。猫被ったお前に簡単に落ちるそこらへんの男には、一ミリも知られたくない。お前を知りたいと思うのとか、そういう意味の分からん独占欲とか、まとめたら、好きってことになるんだと思う」
私が欲しかった言葉以上のものを、和泉しゅうは、恥じらうこともなく押し付けて、少しだけ満足そうな顔をした。