可愛くないから、キミがいい【完】
ずっとそのまま、道の端にいるわけにもいかず、泣き顔のまま電車に乗るのは嫌だったけれど、和泉しゅうに、なるべくみゆのことを隠して、と頼んだら、彼は面倒くさそうにはしていたけれど、なんだかんだ協力してくれた。
そしてこの日、和泉しゅうは、「今日だけな」と気前のいいことを言って、私を家まで、送ってくれたのだった。
手は、ずっと、繋いだままだった。
寒かったから、なんて理由ではなく。
付き合うことになったからでもなく。
ただ、好き同士になったから、だ。
私の家に着くと、すぐに、和泉しゅうは身体の向きを変えて、来た道を戻っていった。
その背中を見ていたら、いま、自分は可哀想ではなくて、本当の意味で、ようやく幸せになれるんじゃないかと思った。
生まれたばっかりの柔らかい幸福のかたちを確かめていたくて、しばらく和泉しゅうの背中を見つめていたけれど、途中で振り返った和泉しゅうに、しっしっ、と、はやく家に入れとでも言っているようなムカつくジェスチャーをされてしまった。
それでも、その顔は、遠目で見ても分かるくらいには、ご機嫌で、馬鹿じゃないの、と、私は、また文句を言いたくなった。
憧れの映画の女の人のようには、なれない。
思い通りにいかないことばっかりで、片方の口角だけあげて笑える余裕が常にあるわけじゃない。
だけど、私は、和泉しゅうが、いい。
可愛い自分は自分で守る。
それ以外を認めてくれるのなんて、たぶん和泉しゅうだけで、認めてもいいと私が許していられるのも、今この世界では、彼だけなのだと思う。
理想とは程遠いロマンスを、和泉しゅうと、大切にする。
そう、決意したら、今まで感じたことのない強烈な甘酸っぱさで、胸がいっぱいになった。