可愛くないから、キミがいい【完】
駅を出て、数十分ほど歩いた。
人気が少ないところでは、猫かぶりの程度が弱まる。
何も言われなかったので、手は繋がなかった。
寒い、と言われれば、前にもそうしたように繋いだけれど。
今が、寒い季節でよかった、となんとなく思っている。
広野にとっては、言い訳や口実がたくさんあるほうがいい気がするし、俺にとってもそうだった。
映画の話や音楽の話をするのは楽しいし、広野の話は面白いなと思う。
自分の好きなことを、遠慮せずに話してくれればいい。
俺もそうしかできない性格だし、それで退屈しないということは、つまり、相性がいいんだろうなと思う。言わないし、言ったところで、全否定されるだろうだけど。全否定される想像しかできなくて、もはや面白い。
駅から少し離れているからか、クレープ屋はあまり混んでおらず、好きな席に座れた。窓際のソファの席がいい、と広野が言うので、そこにする。
俺としては、隣に並んで座るより向き合っていたほうがいいけれど、一応、食べに行くのに付き合ってもらっている体っぽいので、言うことを聞く。
若干の隙間をあけて、並んで座った。
深緑のソファが二人の体重をうけてわずかに沈む。